漆器の表面に色々な絵や模様などを加える製作工程を「加飾」といいます。琉球漆器の加飾技法には、「蒔絵」「沈金」「螺鈿」など様々な技法がありますが、中でも「堆錦(ついきん)」技法は琉球漆器独特の加飾技法です。
堆錦が施された琉球漆器の製品は、現在の沖縄の漆器生産量の約80%を占めるといわれ、琉球漆器の代表的な加飾技法となっています。
堆錦の技法は1715年に比嘉乗昌によって創始されたと歴史書「球陽」に記録されており、その着想は、堆彩漆・堆朱・漆絵・密陀絵の技法から得られたものだと考えられています。
漆の技法自体は、日本であっても中国であってもあまり違いがありませんが、この堆錦だけは、近隣諸国や日本本土にもない、琉球(沖縄)だけにみられる独特なものです。
堆錦は、漆に顔料を混ぜ、金槌で叩いて餅状にし、ローラーなどで薄く伸ばし、それを模様に切り抜いて、器に張り付ける技法です。模様は小刀で削ったり、棒金で凹凸をつけたりして立体的にし、さらに細い線を彫ったり、着色したりして仕上げていきます。
漆に顔料を混ぜ、練ってつくられる餅状の原料のことを「堆錦餅(ついきんもち)」といいますが、この堆錦餅が、亜熱帯の高温多湿な沖縄でのみ、つくることができるものです。沖縄以外の他の地域で、同じ原料で堆錦餅をつくったとしても、内側が乾かず、漆工芸にとって重要な乾燥がうまくいきません。堆錦が沖縄独自の漆の技法といわれる所以は、こういったことによるものです。 比嘉乗昌が、堆錦の着想を得たという堆朱は、立体的な文様を加飾する技法で、漆絵・密陀絵が豊かな色彩表現を行う技法です。
堆錦は、この2種の技法を組み合わせて加飾するための加飾技法で、顔料による豊かな色彩と精緻な造形が特徴となっています。 他の漆の加飾技法と比べてもその表現力は高く、絵画的文様を器に施すという点で優れた技法とされています。
浮彫りのような立体的な図柄が特徴の堆錦は、江戸時代には山水画や山水花鳥画が多くみられ、赤は赤い堆錦餅で、緑は緑の堆錦餅というように材料そのものの色で表現されていました。そのため、長年使用しても退色なく、美しさが変わらないという利点がありました。
大正期から昭和期になると、着色が増え、二層三層に重ねて、立体的に菊の花びらを表現する作品が多くみられるようになります。また、表面全体を黒などの堆錦餅で覆う総貼りの技法も現れました。 近年は、堆錦を使って沖縄風のハイビスカスやデイゴなどを写実的に描いた観光土産品としての需要に応じた作品が多くみられるようになりました。
堆錦は琉球漆器の技法の中でも、最も新しいものですが、工程のうち部分的に分業も可能で、短時間に同一の模様がつけられるといいます。つまり、大量生産が可能でコストも抑えることができるため、現在の琉球漆器の8割を占める技法となったともいえます。
また、堆錦は、あまり熟練を要することがなく、肉厚に仕上げることも容易にできる技法です。さらに、堆錦の施された漆器は、耐久性も極めて高く、こういった特徴が、堆錦技法による漆製品が普及した理由にあげられます。