ジョルジュ・バルビエ(George Barbier)は、20世紀初頭のアール・デコ期に、時代の最先端で活躍したフランス出身のアーティスト、ファッションイラストレーターです。
バルビエの作品は、アール・デコ様式の優美さと、エロティックを兼ね備えた美しい絵画で、ギリシャの壺絵やエジプトの彫刻、日本の浮世絵などの美的感覚に影響を受けました。
バルビエは、1882年フランス西部のブルターニュの港町の裕福な家庭に生まれました。1908年パリに上京し、エコール・デ・ボザール(国立高等美術学校)で学業としてのアートを3年間学びました。
バルビエは、学業以外にも詩人のマラルメの「牧神の午後」に感銘を受け、ギリシャ的世界観に感化され、一方では、当時パリで話題となっていた「バレエ・リュス」(ロシア・バレエ団)の公演を見て、その造形や原色使いの大胆な色彩にも影響を受けました。
バルビエが最初の個展を開いたのは、1911年で、ギリシャ的主題、ロシア的主題などの水彩画の作品を発表しました。
バルビエは、極めて多才で、エルテとともに舞台、映画の衣装や舞台装置のデザインを手掛け、また、宝飾品、壁紙等のデザインも手がけました。
とりわけ、ファッションモードにも深い関心を持っていたバルビエは、高級モード雑誌「ジュルナール・デ・ダーム・エ・デ・モード」「ガゼット・デュ・ポン・トン」などのハイセンスなオートクチュールのファッションイラストレーターとして、その名を馳せました。
バルビエはオートクチュールデザイナー・イシドール・バカンなどのイラストレーションも担当し、次第にそのポショワール(pochoirs)というステンシル型染め技法を駆使した、色鮮やかでエレガントなファッション・プレート(モード画)で人気を集めるようになりました。
エレガントでエキゾチックな世界を表現したジョルジュ・バルビエのファッションイラストは、美術評論家によれると、以下のようにまとめられます。
アール・デコのファッション…1920年代に流行したギャルソンス・ルックのファッションや、アール・デコ調の薔薇の花のプリント模様が魅力的な作品群。「突風」「移り気な鳥」などが代表作。
モダン・ライフ…「水遊び」「冬のスキー」にみられるようなテニス、ゴルフ、海水浴などのモダン・ライフを描いたイラスト作品。
ロココ趣味…18世紀ロココ様式のモードを取り入れた華麗な色彩を駆使したファッションを表現した作品で、ポール・ヴェルレーヌの詩集「艶なる宴」の挿絵などが代表的。
シノワズリ・ジャポニズム…チャイナドレスや着物を着た中国人や日本人の姿を描いた東洋趣味(ジャポニスム、シノワズリ等)の作品群。「トゥーランドット」「中国の香り」などがある。
古典趣味…古代ギリシャやローマ神話を題材としたもので、「牧神の午後」「ピリチスの歌」などがある。
ロシア・バレエ団…「クレオパトラ」「火の鳥」などのエキゾチックな題材を描いたもので、ダンサーのニジンスキーやカルサヴィナの躍動感あふれる姿が優美なタッチで描かれている。