日本の正月に欠かせない漆器。漆塗りの重箱や蓋付の椀など、普段、漆器を目にしない方も、お正月には漆の器を見る機会があるかもしれません。
漆器は、赤や黒の漆をぬるだけでも美しい器になりますが、さらに、蒔絵や螺鈿などの装飾を施すことで、和の贅をつくした漆工芸品になります。
古くは奈良時代に集められた奈良の正倉院宝物の中に、漆器の源流をみることができます。
中国の磁器だけでなく「磁器」全般をchinaと表記するように、日本の伝統工芸品である「漆器」全般をjapanと表記することがあります。
この日本が誇る伝統工芸品・漆器は、どのようにしてつくられるのでしょうか? 美しく、強い漆器は、素地・下地・塗り・加飾の各工程を経て完成します。
1.素地
木材などを成形した、漆を塗る前の状態のものを素地(きじ)といいます。木材を轆轤にかけて成形する挽物、木材を彫刻して器を削り出す刳物、板と板、棒と板などを組み挿し合せる指物、しなやかな針葉樹の薄板を曲げて軽量の器をつくる曲物など、素材の成形法・加工法も様々です。
2.下地
木地の状態の表面を整えて補強し、漆器を丈夫にして漆を塗る状態にすることを下地といいます。下地の工程では、生漆を使い、木地固めから下地研ぎまで行います。 下地の方法には大きく分けて「本堅地」「蒔地」があります。
3.塗り
下地の工程を終えた木地に、刷毛で漆を塗っていく工程です。
塗りは下塗りから艶上げまでの工程で、精製した漆を使用します。 塗りには「下塗り」「中塗り」「上塗り」があり、塗りの各工程の間に「研ぎ」の工程があります。
塗り、研ぎを丹念に繰り返すことで、漆器はより強く、美しくなります。この工程を終えた後の漆器は、湿し風呂(漆の乾燥室)の中に入れて乾燥させます。
4.加飾
加飾は、塗りが完成した後の漆器に施す美しい装飾です。よく知られる蒔絵、螺鈿など、様々な加飾技法があります。
螺鈿
螺鈿は、貝の殻の内側の真珠色の光を放つ部分を薄く種々の形に切って、漆器などの表面にはめこんで装飾としたものです。 貝は夜光貝のほか、鮑、白蝶貝、黒蝶貝などが用いられます。象嵌法としては貝を下地に貼ってから漆で塗り込める塗込法と、文様部分を彫り下げて貝を嵌める彫込法があります。
蒔絵
絵を描くつもりで金・銀などの粉を蒔いていく作業から蒔絵という技法名がついたといわれ、奈良時代に始まる技法です。技法上、平蒔絵・研ぎ出し蒔絵・高蒔絵に大別されます。
平蒔絵
漆で絵を描き、微細な金銀粉や色粉などを蒔き、乾燥後にこれを磨き仕上げる技法です。平蒔絵は、粉固めして磨いだだけのもので、蒔絵の施された面は極めて薄く平らに盛り上がります。
研ぎ出し蒔絵
粉蒔き後に全体を塗り込め、その後、文様が現れるまで平滑に炭で研ぎ出し、巻き上げる技法です。漆と蒔絵の面が均一になっているために、表面を強く傷つけたり、意識的に削らない限り金粉が取れません。
高蒔絵
文字通り高く盛り上がった蒔絵で、鎌倉時代に始まり室町時代に技法が確立しました。漆下地の上に高蒔漆で肉盛りし、その上に平蒔絵や、研ぎ出し蒔絵を施すという工程でつくられるので立体感がありますが、かなりの時間と労力を要する技法です。
沈金
漆塗の表面に沈金刀と呼ばれる刃物で文様を彫り、凹部に漆を摺り込み、余分な漆を拭きとります。凹部に金銀箔、金銀粉、彩漆顔料を充填する技法で、鎌倉時代に中国から日本に伝わりました。凹部に金を沈めることから沈金と呼ばれるようになりました。線彫り、点彫り、引掻きなどの彫法があり、輪島塗や琉球漆器でも用いられている技法です。
彫漆
漆を数十回から数百回も塗り重ね厚い漆の層を作り、これを彫刻して文様をレリーフ状に表す技法で、表面が朱であるものを「堆朱」、黒であるものを「堆黒」と呼びます。
存清
漆地に彩漆を象嵌したもので、室町時代に中国より日本へ伝わり、江戸時代に四国の高松で技法が完成され現在に受け継がれています。
蒟醤(きんま)
中国の填漆が、タイ、ミャンマーに伝わり、その後、日本に伝来した技法です。籃胎などに漆を塗り重ねてから、蒟醤剣と呼ばれる特殊な刃物を用いて線彫り・点彫り等で文様を施し、色漆を埋めて研ぎ、文様を鮮明に浮き上がらせる技法です。かつては黒、朱、黄漆が中心でしたが、近年は、多色の色漆が用いられるようになりました。