新古典主義(Neo Classicism)とは、18世紀後半〜19世紀初頭にかけて、建築、絵画、彫刻、工芸、思想など様々なジャンルでヨーロッパ全域に展開した芸術思潮です。
新古典主義とは、ロココ時代に大流行した享楽的な世界観とバロックの激しい画面構成を否定し、17世紀の古典主義(古代ギリシャ・ローマの様式のこと)など古代趣味を再評価し「絵画はもっと知的で理論的」という信念のもと新しい秩序と、権威の確立を試みたのです。
人々は、優雅だが享楽的・官能的で虚構に彩られたバロック・ロココの流行に「ノー」の声を出すようになり、より確固とした荘重な様式をもとめて古典古代、とりわけギリシァの芸術が模範とされました。
ロココ様式の最盛期は、ポンパドゥール夫人をはじめ、多数の愛人がおり、「最愛王」と呼ばれていたルイ15世がフランスを治めていた時代です。
ルイ15世が64歳で天然痘で亡くなると、後を継いだルイ16世の時代はルイ15世の華美な生活と戦争が祟り、国家財政は貧窮しました。
ルイ16世は、銀行家ジャック・ネッケルに財政の立て直しを託しますが、財政困難のままネッケルは罷免され、フランス革命の火ぶたが切って落とされることとなりました。
その後、ルイ16世は、1792年に王権を失って処刑され、それとともに、ロココ様式も終焉を迎えました。
代わって台頭してきたのが古代ギリシャやローマを模範とする新古典主義です。
フランス革命では、ナポレオン・ボナパルトの登場によって、古典の英雄主義的な主題はさらに好まれるようになりました。
1804年、ナポレオンは皇帝に即位、欧州に強大な帝国を築きました。ナポレオンは自らをローマ帝国の将軍カエサルになぞられ、古代ローマの凱旋門に似せたエトワール凱旋門をつくり、また、古代ギリシャ神殿を模したマドレーヌ寺院やパンテオンを建立し、皇妃ジョセフィーヌのためにマルメゾン城を建設しました。
ナポレオンは、宮廷の規則や儀式などの礼儀作法、衣装、建築物などすべてに渡って古典様式の採用を奨励しました。
このナポレオン帝政下に流行した美術や建築、工芸の装飾様式のことは、アンピエール(Empire・帝政)様式と呼ばれます。
新古典主義では一般に、ロココの官能性に対する反動として、英雄の死、自己犠牲、博愛主義など、禁欲的、悲劇的テーマが好まれました。
【絵画】
ダヴィッド…18世紀フランス新古典主義最大の巨匠。ダヴィッドは、ルイ16世から絵画の注文も受けるなど、いわばパトロンであったが、フランス革命が起こると、王を糾弾する立場となり、王の処刑後は、ナポレオンに専属画家として迎えられることになる。
厳格で理知的な構図・構成と非常に高度な写実的描写などを用いた絵画を制作し、フランス絵画界における新古典主義の確立者となった。
代表作:サン・ベルナール峠のナポレオン、ソクラテスの死、皇帝ナポレオン1世と皇妃ジョゼフェーヌの戴冠など
アングル…新古典主義の中心的人物。保守的な色の強いアカデミーの権威であると同時に、絵画に新たな美の基準をもたらした革命家として知られる。
「自己の美の追求」という観念はルノアール、セザンヌやマティス、ピカソなどにも大変な影響を与えた。
代表作:王座のナポレオン一世、ドーソンヴィル伯爵夫人の肖像、ユピテルとテティスなど
【彫刻】
カノーヴァ…イタリアの彫刻家。裸体を表現した大理石像が有名で、過剰に演劇的になり過ぎたバロック美術から、古典主義の理想を受け継いだ作品を残し、ナポレオンの依頼で皇帝像も制作した。
代表作:ナポレオン、ヘラクレスとリカス、マグダラのマリアなど
【工芸】
ウェッジウッド…英国の名窯ウェッジウッドの創業者であるジョサイア・ウェッジウッドは、新古典主義を背景とする卓越したデザイン性を取り入れ、ジャスパーウェアをはじめとするせっ器に、古代ギリシャ、エトルリア、ローマ、エジプトの陶器の形状、意匠を取り入れ一世を風靡した。こうした傾向はマイセンなどにも大きく影響を与えた。
代表作:ジャスパーウェア、アシュラーなど