アール・ヌーヴォー(仏語：Art Nouveau)は、19世紀末〜20世紀初頭にかけてフランス、ベルギーを中心に流行した装飾美術様式です。
フランス語のArt・アールは芸術、Nouveau・ヌーヴォーは新しいを意味し、アール・ヌーヴォー=新しい芸術を指します。
アール・ヌーヴォーは、純粋美術というよりも、建造物や器具、実用品の装飾に対するアートデザインの革新的ムーブメントで、そのコンセプトは、“産業革命以降、粗悪になった実用品に芸術性を取り戻す“というものです。
アール・ヌーヴォーという新しい様式の名は、1895年にパリの美術商サミュエル・ビングの東洋美術の骨董店の名前で使用されたのが由来です。サミュエル・ビングは、すでに1870年代にパリに日本美術を扱った店を開き成功をおさめており、1888〜1891年に「芸術の日本」という芸術雑誌を刊行し、浮世絵や大和絵、陶磁器など日本美術の普及に努めていた人物です。
サミュエル・ビングは1900年のパリ万博にも出店し、アール・ヌーヴォーは世界の人々に知れ渡るようになりました。
アール・ヌーヴォーは日本の浮世絵やゴシック美術の影響を受けており、絵画や彫刻といった一般的な芸術品だけでなく、ガラス工芸や建築、インテリア、ファッション、広告など、生活に関連するあらゆる分野に影響を及ぼしました。
アール・ヌーヴォーの作品は、基本手づくりで一品ずつ熟練の技術を用いてつくられていきますが、これは、19世紀後半に過度に進行した機械主義(直線を重視する主義)に対する反動として、人間の手仕事の重要性を説く「アーツ＆クラフト運動」の流れの中から必然的に生まれてきたと推測されています。
アール・ヌーヴォーは、直線・単純化の直線主義を極力廃した、植物や動物、昆虫など有機的なモチーフや、流れるように自由な曲線美と複雑化を強調した、装飾性が特徴です。
アール・ヌーヴォーの様式はフランスとベルギーをはじめ、イギリス、ドイツ、スペイン、ベルギー、イタリアとほぼヨーロッパ全域にまたがって広がり、名称も形式の各国まちまちです。
例えば、フランスではアール・ヌーヴォーの他に、流行したミュシャのポスターから”ミュシャ様式”であるとか、曲がりくねった曲線から”中華そば様式”“さなだ虫様式”と呼ばれたこともありました。
ドイツでは雑誌「ユーゲント」に因んで”ユーゲント・シュテール（青春様式）””百合様式”、イタリアでは”リバティフローラ(花の様式)”と呼ばれました。
アール・ヌーヴォーの中心のひとつであったフランスでは大きく2つの様式の流れがありました。ひとつはパリ派と呼ばれるギュスターヴ、エッフェル、エクトール・ギマール、アルフォンヌ・ミュシャ、アンリ・ロートレックらの流れです。
植物模様などにミュシャが施した、流れるような曲線美は、アール・ヌーヴォー様式の絵画に見られる大きな特徴の一つとなっており、現代のグラフィック・デザインに大きな影響を与えたともいわれています。
もうひとつはエミール・ガレ、ドーム兄弟などのナンシー派と呼ばれるガラス工芸のグループで、そのほか、ガラス工芸家のジャック・グリューバー、家具師ルイ・マジョレル、建築家ユジェーヌ・ヴァラン、 オクターヴ・ゲラン、彫刻家アントナン・バルテルミなど数多くの人物を輩出しました。
アール・ヌーヴォーは、1900年のパリ万博を最盛期とした後、急速に退潮し、第1次世界大戦後には、アール・デコ様式にとってかわられますが、1960年代になると再発見され、特にグラフィック・アートやテキスタイルの分野で復活を果たしました。
フランス…パリ地下鉄入口(1898〜1901年)で有名な建築家ギマール、ガラス工芸家エミール・ガレ、家具デザイナーのルイ・マジョレル、ポスター画家・イラストレーターのミュシャの作品、パリの高級レストラン「マキシム」のインテリア装飾など
ベルギー…建築家のオルタとバン・デ・ベルデによる優雅な曲線美で装飾されたタウンハウスなど
イギリス…建築家マッキントッシュのインテリア・デザインや家具、ガラスやエナメルの作品など
オーストリア…帝政オーストリアの画家クリムトやオーストリアの建築家、デザイナーでウィーン分離派の中心メンバーのヨーゼフ・ホフマンの家具・建築設計など
ドイツ…ミュンヘン、ベルリン、ダルムシュタットでユーゲント・シュティールを展開した建築家のアウグスト・エンデル、彫刻家のヘルマン・オブリストなど
イタリア…建築家のエルネスト・バジーレ、ライモンド・ダロンコ、ジュゼッペ・ソマルーガ、カルロ・ブガッティ、ジュゼッペ・ブレガなど
アメリカ…宝飾デザイナー・ガラス工芸家ルイス・ティファニー、シカゴの建築家ルイス・サリヴァンなど
スペイン…建築家ガウディのバルセロナのグエル公園やカサ・ミラ・アパートなど
