幾何学の形が基本形となって、単純なつなぎ模様として世界各地で生み出された文様は、国や土地によって色々な意味合いを持っています。着物などに用いられる日本の伝統的・古典的文様にも様々な種類があり、それぞれが意味を持っています。
日本の文様の意味〜その源流
装飾品などにみられる日本の文様の意味を辿ると、その源流は正倉院や法隆寺などの飛鳥、奈良時代に求めることができます。
仏教・儒学、文学、美術工芸をはじめとする芸術が盛んであった中国(唐)の文化が遣唐使により日本に伝来し、当時の日本のほとんどのものが、唐文化の影響を色濃く受けています。そして、唐文化から渡来した文様が、衣服、器、漆器などに描かれるようになり、おめでたい時を飾る文様として、日本独自に発展していったと考えられています。
正倉院宝物などにみられるこの時代の代表的な文様が亀甲で、吉祥のイメージでその後も亀甲文様も日本の古典的な文様として好まれました。その他、中国から渡来した文様としては、格子、縞、菱、鶴、宝相華、孔雀などがあげられます。
日本の文様の種類と意味
古来、用いられてきた日本の文様には、数えきれないほどの種類があり、ここですべてを紹介することは難しいですが、主には、正倉院文様、有識文様、具象文様、幾何学文様、吉祥文様、名物裂文様などに分けられます。
●正倉院文様
日本最古の文様とされるのが法隆寺や正倉院宝庫に宝物にみられる正倉院文様の上代染織文様で、聖武天皇ゆかりの仏具、武器武具、服飾品、楽器などの品々に用いられました。
唐から渡来した花形の文様の「唐花文」、花と鳥とを組み合わせた文様の「花鳥文」、ペルシャ特有の意匠である大型の連珠円文内に花樹を間に相対する騎馬狩猟を描いた「狩猟文」、華麗な華の模様の「華文」などがあります。
●有職文様
遣唐使、遣隋使により伝わった貴族階級の者に限られて用いられた高貴な文様で、平安時代以降に、貴族の衣の生活に合うように工夫され、和様化した文様のことを有識文様といいます。鎌倉時代以後には、武士にも使われるようになり、やがて一般にも用いられるようになりました。
先ほどもご紹介した吉祥文の一つ「亀甲文」や、二羽の鶴を向かい合わせて図案化して菱にかたどった「向い鶴菱文」、同じ大きさの円の円周を四分の一ずつ重ねて繋いだ「七宝文」などがあります。
●吉祥文様
吉祥文様は、縁起がいいとされる動植物や物品などを描いた図柄で、不老長寿を願う思想から生まれた文様です。
平安時代には既に日本独特の文様があり、江戸期にさらに発展しました。 中国で尊ばれた想像上の瑞鳥を図案化した「鳳凰文」、中国の宋の時代に好まれた高貴な文様である梅・菊・蘭・竹の「四君子」、松は冬の寒さに耐え、竹は緑を保ち、梅は花を咲かせるという中国の“歳寒三友“に由来する「松竹梅」、雌雄が常に一緒で夫婦仲がむつまじいことから好まれる「鴛鴦(おしどり)」、宝物を集めた文様の「宝尽くし」などがあり、その他、雪輪、檜扇、熨斗、几帳、御所車、青海波などがあります。
●具象文様
植物、動物、自然、器物などをバリエーション豊富に描いた文様である具象文様は、古来織りものや絞りの文様で表現されてきた文様です。
植物をかたどった文様が圧倒的に多く、同じ対象を文様として図案化しても、表現方法は様々で、例えば、菊の花であっても、乱菊、万寿菊、菊尽くしなど色々な文様があります。また、流水に紅葉、楓に鹿、月に兎など、自然と動植物を組み合わせて季節感を表現し、江戸時代初期には友禅染の華やかな色彩で文様が描かれるようになりました。
●幾何学文様
直線や曲線、点などで構成される幾何学的な文様で、黒と白・赤と白などの異なった二色の正方形を交互に並べた形の「市松文様」、卍を斜めに崩して連続文様にした「沙耶型」、六角形を基礎にした「麻の葉」などがあります。「麻の葉」は、形が大麻の葉に似ていることに由来し、平安時代の仏像や、鎌倉・室町時代の繍仏などみられる文様です。他には、鱗、籠目、桧垣、網目、桟留縞、松皮菱などがあります。
●名物裂文様
名物裂は、室町時代、桃山、江戸時代初期にかけて、中国(宋、元)から渡来した高級絹織物で、金襴、緞子、間道などがあります。茶人に珍重され、茶道の名器、名物の茶入れや茶碗などの仕覆や掛物に用いられたことで、名物裂文様という名がつきました。
名物裂文様の名称には,裂地そのものの由来や、茶人や僧侶などの名前、茶器などの名物、能装束として使われる際の演目などが裂地に付けられ、「利休緞子」「道元緞子」「珠光緞子」「高台寺金襴」などが例としてあげられます。
日本の古典的文様にどんな意味があるのか、どんな背景や歴史があるのか紐解いてみることで、着物などを選ぶ際にも、楽しさも広がることでしょう。