先史時代の土器から現代の様々な品に至るまで、私たちの身の回りの多くのものには、文様が施されています。ひと口に日本の伝統文様といっても、装飾的な意味だけでなく、象徴的な意味をもつものまで多彩です。様々な日本の伝統文様の表現には、それぞれ意味や歴史的背景があり、その表現の基本を知ることによって、普段、何げなくみている日本の伝統文様の面白さに気付きがあるかもしれません。
英語で文様はpatternですが、この語源は「真似されるべきもの」で、ここから派生して、模範や原型などの基本的な形を繰り返すといった意味から、patternパターン=文様という捉え方をするようになったとされています。
この規則正しい繰り返しの文様…すなわち、連続文様は日本の伝統文様の基本のひとつです。
伝統文様のひとつである連続文様には、点や線、円や矩形など抽象的な幾何学図形を繰り返すものが中心で、日本においては中国文化の影響もあり、古代に連続文様がみられます。また、蔓草をモチーフにした唐草文様も、基本形が頒布するという点で、一種の連続文様と捉えられています。
連続文様の例 縞(線)、石畳(正方形)、鱗(三角形)、格子(線)、檜垣(長方形)、唐草など
日本では古くから、絵師が襖や壁に絵を直接描く伝統が確立しており、襖に描かれるものは絵画として扱われる場合が多く、江戸時代までは、絵師は絵画だけでなく文様の下絵も描きました。
そのため、江戸時代の着物の柄(文様)には、絵師が手掛けた絵画という概念に限りなく近いものも存在します。また、着物だけでなく、陶磁器や蒔絵などの工芸品には絵画とも文様ともいえるような表現の装飾が施されたものが多く見られます。
絵画的文様の例
江戸時代・絵師 酒井抱一 梅樹文様小袖
江戸時代・絵師 尾形光琳 八橋蒔絵螺鈿手箱(国宝)など
日本の伝統文様の名称はそのまま文様の成り立ちをあらわしている場合が多くみられます。
丸…紋のようにモチーフを円形に意匠かしたもの。主に鳥や植物に多い。
流し…モチーフを流水とともに文様化したもの。扇面、菊、楓、桜などが代表的。
捻じ…モチーフを中心から回転をかけるように変形したもの。捻梅、捻菊など。
雪持…植物の葉などに雪が積もった様子を表したもの。主に、竹、梅、柳などに用いられる。
散し…基本形となるものを、全体に散らすように配置したもの。扇散し、松葉散し、桜ちらしなど。
繋ぎ…基本形となるものを縦横斜めに隙間なく並べた文様。七宝繋ぎ、亀甲繋ぎ、卍繋ぎなど。一部を欠けさせたり、全体にアレンジを加えると「破れ」や「崩し」となる。
尽くし…同種のモチーフを集めた文様で、吉祥や形の面白さ、季節感などを意図したもの。貝尽くし、虫つくしなど。
〜取り…雲や洲浜などのモチーフを不定形に画面に区切る構成法の文様。画面に変化を与えて、遠近感を生み出す効果がある。「雲取り」「洲浜取り」「霞取り」など。
段替や肩身替のように意匠や工芸品の表面を大きく分割して、それぞれに全く異なる文様を配する傾向は室町時代後期からみられ、江戸時代に流行しましたが、こういったモチーフの意外な組み合わせや奇抜さなども、日本の伝統文様の面白い点といえます。